空手のススメ、徳島の田舎道場から

written by 逢坂祐一郎(新極真会 第8回世界大会 2位)

認知能力と非認知能力を高めることのススメ、認知能力と非認知能力のリンク

 今、読んでいる本によると非行少年の特徴は以下の「5 点セット+1」にまとめることができるそうです。

 1. 認知機能の弱さ…見たり、聞いたり、想像したりする力が弱い。
 2. 感情統制の弱さ…感情をコントロールするのが苦手であり、すぐにキレる。
 3. 融通の利かなさ…何でも思いつきでやってしまい、予想外のことに弱い。
 4. 不適切な自己評価…自分の問題点が分からず、自信がありすぎたり、なさすぎたりする。
 5. 対人スキルの乏しさ…人のコミュニケーションが苦手。
 +1. 身体的不器用さ…力加減がでぎず、身体の使い方が不器用 ( スポーツなどを経験そしている子どもの場合は当てはまらないことも多いので+1 とする )

 この特徴で最も留意すべきは〝1. の認知機能の弱さ〟であり、認知機能の弱さは勉強の遅れとなり、勉強についていけなくなった子どもは「学校は面白くない」と感じるようになって学校に行かなくなり、学校に行かないことが他の非行少年の特徴を誘発するそうですが、その一例が下記のようにあるそうです。

 勉強について行けなくなり、学校がおもしろくなくなって、学校に行かなくなる
  ↓
 他人とコミュニケーションをとることを避けたりするようになる
  ↓
 他人とのコミュニケーションが不足すると感情統制を行う力、融通を利かせる力、対人スキル育つ機会が失われる
  ↓
 対人スキルが失われると自己評価も歪んだものになる

 少年非行を防ぐには上記のような負の連鎖とならないように、まずは子どもの認知機能を高め、勉強の遅れによって学校に行かなくなることを防ぐことが大切であるとのことです。
 私も「なるほど」と共感を覚える少年非行への見解ですが、この非行少年の特徴「5 点セット+1」、確かに非行少年に顕著に見られる特徴であっても、軽度な特徴は大半の人にあるのではないかと思ったりします。
 私などは人見知りの性格ゆえに〝5. 対人スキルの乏しさ〟などは、そのまま当てはまります。
 〝1. 認知機能の弱さ〟についても、今でも数字を把握するのが苦手であったり、本を読んでも一度で内容を理解できずに読み返したり、軽微にその徴候があるように思い、思春期は劣等感のどん底にあったことから〝4. 不適切な自己評価〟にも当てはまるように思います。
 私は小・中・高と非行と言われれたことはありませんが、私が非行に至らなかったのは、どうにか学校の勉強についていけて、学校に行っていたからのように思います。

 子どもが非行に走らない社会が望ましいのは、言うまでもありません。

 少年非行は子どもの生活環境が、発生原因の大半と言われています。
 窃盗などの少年非行の原因は貧困な生活環境にあったりするそうですが、子どもの大半が少年非行の特徴を大なり小なり持ち合わせており、それが少年非行を誘発させるような生活環境と重なった時に、少年非行が発生する一面があるのではないかと個人的に思います。
 健全に子ども達が成長していく社会であるために、大人達は子どもの生活環境を整備することが大切に思いますが、上記の本を書かれた筆者が提唱するように子どもが学校に行くことは、子どもの生活環境整備の基盤であると思います。

 〝学校に行く〟子どもの生活環境の基盤において重要なのが、上記に書かれているとおり、学校の勉強について行くための子どもの認知能力です。
 学習のための認知能力ではありますが、認知能力の向上は〝学ぶ〟という概念でなく〝トレーニング〟という概念が用いられます。
 〝学ぶ〟と〝トレーニング〟の概念の違い、私は〝学ぶ〟は脳が主体となること、〝トレーニング〟は身体が主体となることと解釈しています。

 認知能力は「見たり、聞いたり、想像したりする力」 と上記にもありますが、身体の五感が元となる能力です。
 学習のための認知能力では〝見る力〟〝聞く力〟、五感のうちの視覚、聴覚が一般的には主流となると思います。
 学習のための認知能力においては他の五感、味覚・嗅覚・触覚などは少し軽視されがちに思いますが、しかしそれらも作動させることで、認知能力はトータル的に高まるものと思います。

 空手は視覚・聴覚で技を学び、そしてさらには技の実践 ( 組手・スパーリング ) による触覚をもって認知能力を高める作用があると思います。
 世間では様々な認知能力トレーニングがありますが、それらの中でも空手は優れた認知能力トレーニングであるように個人的に思います。

 それは技の実践、触覚を用いて認知能力を高めるためですが、「相手の突きをもらったら痛い」と認知する能力は「他の人が突きをもらったらどう思うだろう」といった想像力をもたらすものです。
 認知能力を改めて調べてみると「認知能力とは、テストで数値化して評価できる能力のことです。 記憶力、思考力、計算力、言語力、IQ(知能指数)も認知能力に当たります。」とあります。
 さらに「一方、非認知能力は認知能力以外の能力全般のことで、思いやりや自信、協調性などの数値化できない心の部分を指します。」と、認知能力と対となる非認知能力についてもインターネットで見当たります。
 非認知能力は、認知能力主体のいわゆる詰め込み教育の見直しの一環として、最近の子ども教育で注目されています。

 私は認知能力と非認知能力は別個のものでなく、上記の空手における一例のように「突きをもらったら痛い」という認知が「他人が突きをもらったらどう思うだろう」という想像を生み、その想像力が「スパーリングで自分より弱い子には強く打たないでおこう」といった思いやりになるようにリンクするものと思います。
 認知能力と非認知能力はリンク度を高めることで、双方を高次化させるものと思います。
 空手は認知能力と非認知能力のリンク度を高める可能性を、大いに有する稽古体系を有します。
 空手指導者として、認知能力と非認知能力のリンクをクローズアップさせる指導スキルを研究していきたいと思います。
 3.14.2023 記