空手のススメ、徳島の田舎道場から

written by 逢坂祐一郎(新極真会 第8回世界大会 2位)

空手の試合を楽しむことのススメ、精神的本質が違うスポーツと武道の精神的共有域

 早いもので、もう 12 月。
 2023 年も残り 1 ヶ月を切りました。
 今年は新型コロナが 5 類に移行し、空手に関する様々な事が、ほぼコロナ前に戻りました。
 大会も、その一つですが、今年はたくさんの大会に新極真会徳島西南支部の道場生が出場しました。

 大会ごとに道場生の試合結果に一喜一憂しましたが、先月の和歌山県大会では、同大会の最後の試合に道場生が登壇しました。

 大会における最後の試合は、その大会を締めくくりとしての意味合いがある場合があります。
 和歌山県大会における最後の試合も、大会の締めくくりとしての意味合いがありましたが、登壇した道場生は幸運にも勝利しました。


www.youtube.com

 その試合、私は審判を努めていたので、道場生が出稽古でもお世話になっている新極真会徳島北東あわじ支部の前川支部長にセコンドをお願いし、応援サイドには会場にいた全ての道場生、保護者の方々が居並び、道場生に声援を送り、また見守っていました。
 大会の締めくくりとしての試合の勝利は格別で、応援サイドに居た前川支部長、道場生、保護者の方々も我事のように道場生の勝利を喜んでくれました。
 勝利した当人も含めて、勝利に沸く新極真会徳島西南支部関係者、私はその光景を見ながら「スポーツの楽しさの一つとは、こういったものなんだろう。」と、ふとっ、思ったりしました。

 セコンド、応援してくれた道場生、保護者などの方々の歓喜には、懸命に戦い勝利した道場生への感情移入があったと思います。

 競技をする選手の懸命な姿、それを観るものの感情移入は、正しくスポーツの醍醐味であると思います。
 感情移入を改めて調べてみると「自己の感情を、対象の中に投射して、その対象と自己との融合する事実を意識すること。」とあります。
 難しい解釈ですが、競技選手への感情移入は、要は〝選手への思い入れ〟と思います。
 空手、特に実際に突き・蹴りを実際に当てる我々の空手の競技はハードです。
 ハードがゆえに、我々の空手競技で生じる、観るものの感情移入には、多大な感情量が沸き起こると思います。
 そして、その多大な感情量は〝空手競技を観る楽しさ〟になるものです。

 選手への感情移入は、選手の競技での戦いざまから、または選手の競技にかける熱意などから生じるものです。
 支部関係者はもちろんのこと、それ以外の空手の試合を観る人たちが、感情移入できる選手の育成に努めたい、と指導者としては思うところです。

 「感情移入はスポーツの醍醐味」「感情移入できる選手の育成に努めたい」と書きましたが、私は元来、スポーツと武道は精神的本質が違うものと思っています。
 スポーツと武道の精神的本質の違いは、ブログでよく書くところで、今回はしつこく、その違いの詳細を書きませんが、スポーツの精神的本質である「楽しむ」ことは、私は武道における精神的本質においては、無いか、またはあっても希薄なものと思います。
 ただスポーツと武道では競技を通して、その精神性で共通する概念があります。

 それは〝アスリート〟という概念です。
 現代ではスポーツ、武道ともに競技が盛んです。

 〝アスリート〟とは「スポーツや、他の形式の身体運動に習熟している人」といった概念であり、その概念には〝心身の高まった、優れた人〟といった意味合いも含まれます。
 スポーツに習熟する人は、アスリートとして、時にスポーツの精神的本質である「楽しむ」ことから、かけ離れる人がいます。
 スポーツ・アスリートは競技での勝利を目指して「楽しむ」ことを捨て去り、トレーニングで自分を追い込み、競技に自分の全身全霊をかけます。
 そのアスリートとしてのストイックさが、スポーツ競技を観るものの感情移入を一層高めるものになりますが、そのストイックさは武道の精神的本質に基礎成分として含まれるものです。
 武道は競技者であらずとも、心身を高めるアスリート足るべきを目指す〝道 ( みち )〟であり、武道競技に引退にあっても〝武道〟そのものに引退はありません。
 武道は〝道〟ゆえに、スポーツとは違った精神的本質を有するものです。
 精神的本質の違うスポーツと武道ですが、両者は競技において精神的本質を超え、アスリートとして共有する精神的な領域があります。

 それは〝観るものを感動させ、楽しませる〟ことのようなスポーツの精神的本質、競技者として〝自らの心身を高め、自らの充足を得る〟ことのような武道の精神的本質が交錯する領域であり、その共有域は競技、試合の場にあります。
 私はスポーツ、武道の共有域を、武道としての空手指導者を任ずるものとして、追求していきたいと思います。

 そのためには試合に挑む道場生を、観る人が、感情移入できる選手へと育成することが重要なことの一つになります。

 空手を観る人の感情移入は、勇敢な、または正々堂々した試合ぶりなどの、武道としての精神性から生じるものです。
 精神性のともなった武道としての空手の指導を、常に心がけたいと思います。

 さて、今年の試合も 12/29 に行われる全四国錬成大会のみとなりました。
 来年は、2/12( 火・祝 ) に行われる香川県大会が最初となります。

 両大会に出場する道場生の皆さん、皆さん自身が皆さんの成長へと繋がるように、そして保護者などの見守り、応援をしてくれるの方々が楽しめる大会になるように頑張りましょう !!
 12.5.2023 記