空手のススメ、徳島の田舎道場から

written by 逢坂祐一郎(新極真会 第8回世界大会 2位)

スピード感が一等の価値となる現代社会のグローバリゼーションにおいて、長い年月、長い時間をかけて作り上げていく本質のススメ

 「クロワッサンがアメリカ中に急速に広まり、伝統的なドーナツに挑戦するまでになるのに、フランス人が大挙してアメリカに移民する必要はなく、ファーストフードのハンバーガーをヨーロッバのほとんどすべての中規模の都市にまで行き渡せるのに、多くのアメリカ人が移民する必要はない。」

 上記は今、読んでいる本の一文です。

 「グローバリゼーションが劇的に進行する現代社会を表現した一文」と紹介されていましたが、個人的に「なるほど」と思う、とても巧みな表現のように思います。
 〝グローバリゼーション(グローバル化)とは、地球規模で複数の資本、情報、人の交流や移動が行われる現象のこと。 また、自国と他国の関係性を表す「国際化」とは異なり、「グローバリゼーション」はヒト・モノ・カネの流動性が高まり、国境のない世界を意味する。〟と、インターネットで調べると出てきます。

 私の大学入試の 2 次試験は論文でしたが、論文を指導してくれた高校の先生が「これからはグローバルという言葉がもてはやされるから、論文でなるべく使え。」と指導されたため、グローバリゼーションの元になるグーロパルという言葉には昔から馴染みがあります。
 グーロパルという言葉がよく使われるようになったのは、私が高校生の頃、30 数年前からですが、近年の IT 化で、グローバリゼーション(グローバル化)は上記の如く、まさに劇的に進行しています。

 クロワッサンの急速な広まりのようにグローバリゼーションの劇的な進行は、新たな価値の急速な広がりとなり、それが多大な経済効果となることは、私のような者にでも容易に想像できます。

 グローバリゼーションにはビシネスチャンスとしての価値の一面があり、それゆえにもてはやされますが、その価値の一つは急速な広がりといったスピード感に思います。
 グローバリゼーションの現代社会においては、スピード感が重要な価値となる価値基準が組み上がっているようにも個人的に思います。

 ところで、クロワッサンもハンバーガーもパンの一種です。
 パンの起源をインターネットで調べると〝今から 8000 年~ 6000 年ほど前、古代メソポタミアでは、小麦粉を水でこね、焼いただけのものを食べていました。 これがパンの原型とされています。 その後、小麦栽培とパンづくりは古代エジプトへ伝わり、偶然によって発酵パンが誕生しました。〟と出てきます。

 ちなみにクロワッサンの起源を調べると〝クロワッサンは、フランス語で「三日月」という意味。 オーストリアウィーンの発祥。 1683 年ハプスブルク家の守備隊が、攻めてきたオスマントルコ軍を撃退した記念に、トルコの象徴である三日月をかたどって作ったといわれている。〟と出てきます。
 またハンバーガーの起源を調べると、 13 世紀の中央アジアに暮らしていた騎馬民族タタール人にその起源はあるそうです。

 クロワッサンもハンバーガーも、グローバリゼーションによってグローバルな食べ物となりましたが、その美味しさという本質がなければグローバル化はしなかったと思います。
 以前、テレビで古代エジプトで作られていたパンを再現して食べるという番組が放送されていましたが、番組のリポーターが実際に古代エジプトで作られていたパンを食べたところ、美味しくはなかったそうです。
 歴史的に、古代エジプトで作られていた美味しいとは言えないパンが、美味しいクロワッサンやハンバーガーに進化したという変遷が見て取れますが、その変遷には紀元前からの何千年もの時の流れがあります。

 クロワッサンやハンバーガーはグローバリゼーションによって急速に世界に広がりましたが、クロワッサンやハンバーガーのグローバル化に必須な〝美味しさ〟という本質が生み出されるには、長い年月が必要であったように思います。

 30 数年前からもてはやされてきたグローバルですが、グローバル化には世界の均質化という意味もあるそうで「世界の均質化によって世界各地の独自性が失われる」という危惧が最近では警鐘されています。
 世界各地の独自性の喪失は、グローバリゼーションのスピード感を一等の価値とすることによって、長い歴史によって世界各地で醸成される本質的価値の厚みが薄れることに要因の一つはあるように思います。
 世界各地の独自性は、その地域で長い年月をかけて作り上げられたものです。
 スピード感を信奉するだけでなく、クロワッサンやハンバーガーのような価値の本質が醸成されるには、長い年月が必要であったことをグローバリゼーションの時代だからこそ忘れてはならないと思います。

 グローバリゼーションの時代に忘れてはならない長い年月、長い時間が作り上げるグローバル化にかなう本質的価値を見据えることは、クロワッサンやハンバーガーのようなモノのみならず、人にも必要に思います。

 私は空手指導者ですが、道場を開設して 24 年になります。

 道場には 10 年来以上の道場生もいますが、空手を特に子ども達に指導していると、人の個々の本質を高めるには長い年月、長い時間が必要であることを痛切に感じます。
 小さい頃には想像しなかった成長を遂げる道場生もいますが、空手指導者として 24 年が経過した今の私の指導の信念には「人、特に子どもは時間をかけないと分からない」「拙速に人、子どもを判断するのは禁忌」といったことがあります。

 人の成長もスピード感、早熟が尊ばれがちです。
 時折、空手を辞めていく子ども達の中には「試合に勝てないから」といった理由が聞かれますが、その理由には空手を習い始めて、すぐに試合に勝てるようになるような「早熟を良し」とするスピード感への信奉を個人的に感じます。

 空手では「子どもの頃はなかなか勝てなかったけど、大人になってから勝てるようになった」との話もよく聞かれます。
 空手には長い年月、長い時間が必要である自身の指導の信念からぶれずに、その信念を通すことでグローバリゼーションの時代に適合する本質を持った人材育成の場に、新極真会徳島西南支部をしていきたいと思います。

 1.23.2024 記