空手のススメ、徳島の田舎道場から

written by 逢坂祐一郎(新極真会 第8回世界大会 2位)

武道的観念によるプレイヤーズ・ファーストのススメ、選手の心身を蝕む〝プレイヤー枯渇〟

 オリンピックのような、競技における大きなスポーツイベントには、多大な経済効果があります。
 スポーツイベントは、観戦者などを主体としての経済効果が発生するため〝産業〟と見る向きがあります。
 産業としてのスポーツイベントは、観戦者に提供するスポーツの純粋な感動や興奮が利益となるため、豊かな社会形成に寄与する健全で、有益な産業として一般的に認知されています。

 スポーツイベントは大きなイベントだけに限らず、地方の少年野球大会などの、ごく小さなイベントにおいても観戦者に感動や興奮を与えます。
 小さなスポーツイベントの場合、観戦者は選手の保護者などの少数に限られますが、我が子が懸命にプレーする姿に保護者などは一応に感動、興奮するものです。
 小さなスポーツイベントは、大きなスポーツイベントに比べて経済効果としては僅 ( わず ) かですが、選手が自分の子どもなど、身近な存在だけに感情移入は高まり、ある意味オリンピック以上の感動と興奮をもたらす場合があります。
 スポーツイベントは大・小を問わず感動と興奮をもたらし、その感動と興奮が大・小の利益となり、スポーツイベントに関わる様々な人々の物心両面を潤す、まことに有益な産業と言えます。

 ところで〝産業〟には、それを支える〝資源〟が必要となります。
 スポーツイベント産業における〝資源〟の主体は、人をモノのように表し、不適切かもしれませんが、事実として選手、今風に言えばプレイヤーです。
 プレイヤーの懸命なプレイによって感動と興奮は〝生産〟され、その感動と興奮が観戦者などに〝消費〟されるのが、スポーツイベントの産業構造としての骨格に思います。
 一般的に産業経済における、どのような〝資源〟も〝消費〟によって〝枯渇〟の危険性をはらむものです。
 その危険性は、スポーツイベント産業にあっても同様に存在します。

 スポーツイベント産業の資源たる〝プレイヤーの枯渇〟として、個人的に一番に思いつくのはプレイヤーの怪我です。

 観るものに感動と興奮をもたらすプレイをパフォーマンスするため、プレイヤーは時に過度なトレーニングを自ら、または他者から強いられる場合があります。
 その過度なトレーニングで、身体を壊すプレイヤーが少なくないのが、スポーツ界の現状です。
 プレイヤーの怪我は時に選手生命にも及びますが、プレイヤー枯渇は身体面だけではありません。
 プレイヤーは高いパフォーマンスのために、過度、そして抑圧的なトレーニングを強いられる場合があります。
 抑圧的なトレーニングはプレイヤーの精神に対して支配的になりますが、プレイヤーが怪我や引退などで抑圧的なトレーニングの精神的支配から解放されると、かえって自分を見失い、自分が制御できなくなるケースがスポーツ界では散在します。
 違法薬物に精神の安定を求めたり、数年前にはオリンビック代表選手の万引き事件などもありましたが、プレイヤー枯渇は競技に対するバーンアウト ( 燃え尽き症候群 ) なども含めて精神面にも及びます。

 プレイヤー枯渇は、一人の人間の心身を消耗させ、時には人生を大きく誤らせる由々しき問題です。
 そしてプレイヤー枯渇はスポーツイベントの大・小に関わらず、競技に対する熱量が高いほど発生しやすい、身近な問題に個人的に思います。
 〝プレイヤーズ・ファースト〟という言葉が最近よく聞かれるようになりましたが、〝プレイヤーズ・ファースト〟への最重要課題の一つはプレイヤー枯渇への対策に思います。
 幸いにも近年、その対策が各スポーツ界において講じられるようになりました。
 柔道における小学生の全国大会の廃止、バレーボールにおける「監督が絶対に怒ってはいけない大会」の実施など、その主旨はプレイヤー枯渇への対策に思います。

 プログでよく書くことですが、私は武道とスポーツは精神性において別物と認識しています。
 しかし、武道とスポーツは共通点もあり、その最たる共通点は競技にあるとも認識しています。
 武道、特に空手は競技が盛んですが、武道としての空手においても、武道的な観念からプレイヤー枯渇には重々配慮しなければならないと思います。
 以下からの内容は、新極真会徳島西南支部内での支部内連絡ともなりますが、当支部ではプレイヤー枯渇への対策をこれまで以上に講じて行きたいと思います。

 その一つとしては、体重別階級のある、大会エントリーでの支部内基準です。
 今年度からカラテドリームフェスティバルの選抜戦が始まりましたが、選抜戦の大会は体重別です。
 今年度からは以前は無差別だった大会が、選抜戦になることで体重別階級の大会なるなど、今後、体重別階級の大会は増加するように思われます。
 それに伴い、当支部の道場生も体重別の大会に、これまで以上に参加する機会が多くなります。
 体重別の大会では、現体重がリミット体重付近の場合があり、エントリー階級に悩む道場生がこれまで散見されてきました。
 重い階級より、軽い階級の方が勝利を得るには有利であり、悩む気持ちは理解できるもので、これまで私としては減量など体重に気を使って大会にのぞむことは勧めませんでしたが、最終的には本人の意志に任せていました。

 しかし昨今の現状、大会に出場する道場生は、身体を大きくすることが仕事である子ども達が大半です。
 子ども達が減量など、体重に気を使って大会にエントリーすることは、根本的に人道上の誤りであり、そしてプレイヤー枯渇になるものと個人的に思います。

 そこで新極真会徳島西南支部は、今後、体重別の大会にエントリーする場合、現状の体重が階級リミットより 2Kg 以上軽い場合に同階級にエントリーし、2Kg 未満においては軽くても大会までの増量成長を考慮し、一つ上の階級にエントリーすることを支部内ルールとします。

 またもう一つ、日曜日の翌日が祝日となり、違う大会が翌日に開催されるケースがありますが、その場合、選手の負担などを考慮し、両大会への参加は認めないこととします。

 上記の二つのルールは支部内ルールとして厳格化しますが、選手が子ども達であるため、エントリーには保護者様の意向が反映されるものと思います。

 保護者様においては、子ども達の大会での勝利を願い、勝利のためのアプローチをそれぞれに求めるところとは思います。

 しかし保護者様においては、スポーツイベント産業の消費資源にするために、子ども達に空手を習わせた訳ではないと思います。
 その観点から、上記の支部内ルールにご理解をいただきたいと思います。
 また指導者として私も、人道を根本とする武道的観念によるプレイヤーズ・ファーストを常に念頭に置き、道場生選手の指導に尽力していきたいと思います。

 7.2.2024 記